慶應義塾大学と米国ワシントン大学による国際共同研究グループは、日本の47都道府県における1990年から2021年の健康状態の変化を分析し、研究成果が国際学術誌「The Lancet Public Health」に掲載された。
本研究は、世界的な疾病負荷研究(GBD2021)のデータを用い、全国レベルおよび都道府県別に健康指標やリスク要因の長期的推移について分析。結果、日本の30年における健康状態の変遷として以下の点が明らかとなった。
● 平均寿命が延長するも、健康寿命との差は拡大
● 47都道府県の間で健康格差が拡大
● 認知症が主要死因の第1位に浮上
● 主要疾病の死亡率低下が鈍化
● 糖尿病や肥満、高血糖が悪化
● COVID-19 による死亡率は低水準だが、精神疾患は悪化
平均寿命が延長するも、健康寿命との差は拡大
日本の平均寿命は1990年の79.4歳から2021年には85.2歳へと5.8年延びたが、健康寿命は69.5歳から73.8歳の伸びにとどまり、健康寿命と平均寿命の差は9.9年から11.3年に拡大した。
性別でみると、健康寿命と平均寿命の差は、女性では12.7年、男性では9.9年の差が生じており、高齢化社会の進展とともに「健康な長寿」をいかに実現するかが大きな課題であることが示された。
47都道府県間の健康格差が拡大
今回の分析により、都道府県間の健康指標における地域差が、30年間で拡大している実態が明らかになった。
平均寿命について、1990年時点での都道府県別の差は2.3年だったが、2021年には2.9年に拡大していた。
また健康寿命においても、都道府県別の差は1990年には1.8年だったが、2021年には2.3年へと開きが広がった。
これらの結果より、都道府県ごとの健康寿命や平均寿命には差があり、その格差が広がっていることが明らかとなった。
認知症(アルツハイマー病など)が主要死因の第1位に浮上:
疾病負荷(DALYs:早期死亡や障害によって失われた健康的な生活年数)も2015年から2021年にかけて人口あたり約2割増加し、予防・ケア体制の整備が急務。■ 主要疾病の死亡率低下が鈍化:
脳卒中や虚血性心疾患を含む主要疾病の年齢調整死亡率の減少ペースが鈍化。全死因の年齢調整死亡率の年率換算変化率は、1990〜2005年の-2.0%から2015〜2021年には-1.1%へと縮小。■ 糖尿病の状況が悪化、肥満のリスクも高まる:
2015年以降、年齢調整した糖尿病に起因するDALYsは年率2.2%増加。高血糖や過体重・肥満の問題も深刻化しており、対策の強化が求められる。■ パンデミック初期(2021年)の COVID-19 による死亡率は低水準だが、精神疾患は悪化:
COVID-19による年齢調整死亡率は人口10万人あたり3.0人と、世界全体(94.0人)の約31分の 1の低水準。一方、2019〜2021年のパンデミック前後で精神疾患によるDALYsは悪化し、特に若年層(10〜54歳)において増加が顕著だった。この年代では、女性が15.6%、男性が9.0%の増加を示し、特に若年女性への影響が大きかった。
【掲載誌】Lancet Public Health PT・OT・STNETより引用