政府は6月10日、全国の60歳以上4,000人を対象に行った経済生活に関する調査結果などを掲載した令和7年度版「高齢社会白書」を公開した。少子高齢化が急速に進む中、日本の高齢者は物価高騰による生活不安や、働き続けることへのニーズ、そして健康維持の難しさという複合的な課題に直面している実態が示された。

この白書は、高齢社会対策基本法に基づき、政府が毎年国会に提出する年次報告書であり、高齢化の状況や政府の取り組み、今後の政策の方向性を示すものとなっている。

今回の白書では、令和6年10月1日時点の日本の総人口は1億2,380万人であり、そのうち65歳以上は3,624万人で、総人口に占める割合(高齢化率)は29.3%と、過去最高を更新した。

今後も高齢化の進行が見込まれており、政府の推計では、2070年には「2.6人に1人が65歳以上」「約4人に1人が75歳以上」という社会が到来するとしている。

高齢者が抱える“最大の不安”は「物価上昇」

今回の調査で、高齢者にとって、最も大きな経済面での不安は「物価の上昇」(75%)であることが示された。

続いて「収入や貯蓄が少ない」(47%)、「自力で生活ができなくなり、転居や有料老人ホームへの入居費用がかかる」(43%)が挙がった。

物価高騰が続くなか、年金や貯蓄だけに頼る生活に不安を抱える高齢者が多数存在している現状が浮き彫りとなった。

なぜ高齢者は働き続けるのか?―「収入のため」が最多

高齢者の仕事をする理由として最も多いのは「収入を得るため」(55%)であった。これは「働くのは体によい」(20%)や「知識・能力を生かせる」(12%)といった、健康面や生きがいなどの理由を大きく上回る結果であり、多くの高齢者は生活防衛という側面から働いている現状が明らかとなった。

政府もこの動きを重視しており、白書では「人生を豊かに過ごせる社会の実現に向け、希望に応じて働き続けられる環境整備や資産形成の促進などが重要」と指摘。

三原じゅん子大臣は、「高齢期の就業ニーズを踏まえたきめ細かなマッチングを図っていくことが重要。高齢期も安定して豊かに暮らせる社会の実現に向け、関係省庁とも連携して必要な施策をしっかり推進していきたい」と述べている。

高齢者の“就労”を阻む最大要因は「健康の壁」

就労を希望していても実現できない理由として最多だったのは、「健康上の理由」(31%)であった。

次いで「年齢制限で働くところが見つからない」(30%)、「仕事の種類(職種)で合うところが見つからない」(26%) といった声も挙がっている。

これらの結果から、高齢者においては健康問題が就労継続の最大の障壁になっていることが示された。

就労支援と健康維持は「セット」で考える時代へ

今回の白書では、高齢者が経済的不安のために就労を希望している一方、健康問題を理由に仕事ができていない現状が明らかとなった。

高齢者の就労支援と健康支援は切り離せない、この考え方は国の政策にも反映されている。厚生労働省が策定した「第14次労働災害防止計画」では、「理学療法士等の活用」が明記され、事業場における労働者の身体機能の維持・改善を専門職によって支援する方針が示された。

具体的には、筋力維持や転倒予防のための運動プログラムの導入、スポーツ習慣化の推進、骨密度やロコモ度、視力などの「転倒リスクの見える化」の促進が含まれている。さらに、「職場における腰痛予防対策指針」に基づき、作業内容に応じた腰痛対策の強化も推奨されている。

これらの施策は、高齢化や女性の就業率上昇などに伴う健康課題への対応を目的としており、現場の多様化したニーズに応える産業保健体制の再構築を目指している。

高齢者の社会参画を後押し 大綱にみるリハ専門職への期待

また、政府が2024年に閣議決定した「高齢社会対策大綱」でも、リハビリ専門職の関与が期待されている。大綱には、高齢者の就労促進においてフレイル・ロコモ対策の視点を重視し、普及啓発に取り組むことが明記された

健康・福祉・生活環境の整備、地域や多職種との連携による支援体制の構築、さらにはリハビリ機器の研究開発・実用化の推進も含まれており、これらはすべて高齢者が能力に応じて社会参画を続けられる環境づくりにつながる。

物価高騰が続く現代において、高齢者にとって就労は生きがいだけでなく、生活の維持手段としての意味合いも強まるなか、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士といったリハビリテーション専門職の役割にも注目が高まっている。

政府は、就労支援と健康維持を切り離さず一体的に進める政策を打ち出しており、高齢者が健康に働き続け、社会に貢献できる仕組みの実現へ取り組みを進めるとしている。

PT-OT-ST.NETより引用

 

This will close in 0 seconds

上部へスクロール